〜大切な家族の治療方針を納得して決めるために〜
はじめに
「説明は受けたけれど、結局よくわからなかった」
「忙しそうな先生に、聞き返す勇気が出なかった」
親や配偶者の病気で病院に呼ばれ、医師から説明を受けたはずなのに、診察室を出た瞬間、内容が曖昧になってしまった経験はありませんか?
医療現場では、専門用語が当たり前に飛び交います。
さらに医師は多くの患者を抱え、説明の時間も限られがちです。
しかし、治療の内容や選択肢、リスクを理解せずに決断することは、後悔につながる可能性があります。
この記事では、私(医療ソーシャルワーカー)が現場で見てきた「説明がわからない・聞けない」場面と、その対策を具体的に解説します。
読み終える頃には、「どう質問すればいいか」「何をメモすればいいか」がはっきり分かるようになります。
なぜ聞けないのか?よくある理由
- 医師が忙しそうで遠慮してしまう
病院の待合室は人であふれ、多くの患者さんが待っている光景が見えます。
診察室のドアが開いた瞬間から、挨拶もそこそこに早口での説明が始まり、周りの看護師さんたちが慌ただしく動きまわる様子に、「これ以上時間を取らせたら悪い」と感じ、質問を飲み込んでしまう方は少なくありません。 - 専門用語が多くて質問の仕方がわからない
「冠動脈」「ステント留置」「予後」など、日常生活では耳にしない言葉が続くと、何がわからないのかすら分からなくなる状態になります。レントゲンやCTなどの画像を見せられても、血液検査の数値を説明されても、「はあ~」としか反応できません。 - 「一度聞いたのに、また聞くのは失礼」と思ってしまう
「先生はさっき説明してくれたのだから、もう一度聞くのは迷惑では…」という心理的なブレーキがかかる気持ちも。しかし、説明を理解していなければ、患者本人や他の家族に説明して、治療方針を判断するための相談もできません。
聞けない状況を変える5つの対策
対策① 質問メモを事前に作る
診察室に入る前に、メモ帳やスマホに質問を書き出しておきましょう。
例:
「治療の目的は何ですか?」
「この治療のメリットとリスクは?」
「治療をしない場合、どうなりますか?」
「他に選択肢はありますか?」

漠然とした「何か質問しなきゃ」ではなく、具体的な質問があるだけで、聞くハードルが下がります。
対策② 家族複数で説明を聞く
1人で聞くと、緊張や感情の動揺で聞き漏れが生じます。
複数人で同席すれば、メモ係・録音係(許可があれば)を分担でき、情報の正確性が高まります。
対策③ 説明後に要点をメモ→医師に確認する
説明を聞き終えたら、こう切り出してみてください。
「私の理解が正しいか確認させてください。今回の治療は〇〇で、その目的は□□、リスクは△△ということで合っていますか?」
これは「復唱確認」と呼ばれる方法で、理解のズレを防げます。
対策④ 医療ソーシャルワーカーに同席してもらう
病院には、患者・家族と医療者の橋渡し役である**医療ソーシャルワーカー(MSW)**がいます。
医師からの説明に同席し、その後わかりやすく整理してくれることもあります。
対策⑤ 通訳のように説明してくれる看護師に相談
説明の後に看護師さんへ「先生の説明をもう少しかみ砕いて教えていただけますか?」とお願いすると、生活の視点から補足してくれることがあります。
実践会話例
専門用語を避けてもらう

説明ありがとうございます。「冠動脈ステント」という今の治療について、専門用語を使わずに簡単に説明していただけますか?

はい、この治療は詰まった血管を広げるために金属の筒を入れる方法です。
選択肢とリスクをセットで聞く

この治療と、他の治療法を比較すると、どう違いますか? それぞれのリスクは?

Aは回復が早いが再発リスクが高い、Bは回復に時間がかかるが再発が少ない、という特徴があります。
治療しない場合の影響を確認

この治療をしなかった場合、今後どうなりますか?

進行すると命に関わる可能性が高くなります
今日からできることチェックリスト
- 質問メモのテンプレートを作っておく
- 親の病歴・服薬リストをスマホに保存
- 病院で説明を受けるときは可能な限り複数人で参加
- MSWや看護師に説明補足を依頼できると知っておく
- 「治療しない場合」を必ず聞く習慣をつける
まとめ
医師の説明は、治療の方向性を決めるうえで欠かせない情報源です。
しかし「わからないまま頷く」ことは、誤解や後悔につながります。
ポイントは、事前準備と“聞き返す勇気”。
質問を整理して持ち込み、複数人で聞き、理解をその場で確認する。
これだけで、説明の受け取り方は大きく変わります。
次に病院へ行くときは、「聞いてはいけないことなんてない」という気持ちで臨んでください。
あなたの質問は、家族を守る大切な行動です。
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