親の認知症で困らないために――お金と相続の準備、今からできること

親の介護と暮らし

はじめに

親の認知症が進んできて、これからのお金や相続のことが心配…
そんな思いを抱く人は少なくありません。

私自身、医療ソーシャルワーカーとして多くのご家族を支えてきましたが、いざ家族の立場になると難しさを実感しました。きょうだい間での温度差、親のこだわり、そして「財産目当てと思われたくない」という気持ち…。同じように悩む方はきっと多いはずです。

この記事では、親が認知症になったときに起こりやすい「お金・相続の困りごと」と、事前にできる準備についてお伝えします。

認知症とお金の問題は、なぜ起きる?

親が認知症になると、次のようなことが問題になりやすいです。

  • お金の出入りが不透明になる
    「どこに預金があるのか分からない」「年金がどこに振り込まれているのか知らない」など。
  • 親の意向が曖昧なまま進む
    「孫の学費を支援するつもりだった」「誰に何を残すつもりなのか分からない」など、口約束で終わってしまう。
  • きょうだい間での負担感の差
    同居して世話をする子と、離れて暮らす子では感じ方が違うため、不公平感が生まれる。
    こうした小さな行き違いが、のちの大きなトラブルにつながることもあります。

実際によくある“もめポイント”

実際の相談や経験を抽象化すると、次のような場面で摩擦が生まれやすいです。

1.孫世代への支援
 長男「孫の学費は任せておけって言ってたよね?そのもりだったのに・・・」
 父 「そんな約束はしていない。自分の子どもの学費くらい出せないのか?」

  記憶や認識の違いにより気まずくなり、疎遠となることも😣

2.同居・別居の違い
 同居の長男「私が世話している」「一緒に住んでいるのだから」
 嫁いだ長女「平等にしてほしい」「家を出たので、兄嫁さんに遠慮がある」

3.残したい気持ちの誤解
 「長男に多めに渡したい」「次女は未婚だから心配だからのこしてやりたい」「老後の世話をしてくれた孫に渡したい」親の言葉が場面によって変わるため、真意が分からなくなる。

事前にできる3つの準備

では、どのように備えればいいのでしょうか?

  1. 家族間で「お金の話」を避けない
    「財産目当てと思われたくない」と避けてしまいがちですが、あえてオープンに話すことが大切です。特にきょうだい間では、情報を共有するだけで安心感が違います。
  2. 公的な仕組みを知っておく
    任意後見制度:判断力があるうちに、将来の財産管理を信頼できる人に託せる
    家族信託:子どもが財産を管理できる仕組み
    エンディングノート:希望を書き残しておくことで、本人の思いを尊重できる
  3. 記録を残す
    口約束は誤解のもと。ちょっとしたメモでもよいので書き残す、可能であれば第三者の立ち会いを入れると安心です。

参考資料一覧(まとめ)

テーマ資料名・提供元
遺言書法務省「自筆証書遺言書保管制度」日本公証人連合会「遺言の意義」
家族信託(公的)東京司法書士会「家族信託を活用しよう」パンフレット
家族信託(基礎)「はじめての『家族信託』安心ガイド」PDF
家族信託(実務)「家族信託実務ガイド」(専門誌)
家族信託(解説)Trinity Tech、相続会議、VSグループなどのウェブ記事

注意:家族信託は民法に基づく「信託契約」の一種で、法律上は 信託法(法務省所管) に位置づけられており、「家族の財産管理・承継」のために用いるため、金融庁の直接の監督は入りません。そのため、実務では 弁護士・司法書士・信託士・専門家団体 などがサポートしています。専門職及び事業団体との契約に関しては、よくご確認の上各自の判断でお願いします。
また、家族信託は法律上は“民事信託”と呼ばれています。家族での財産管理に使いやすい制度として紹介されるときに“家族信託”と呼ばれることが多く、つまり同じ制度を意味しています。

相続準備の実用アドバイス

遺言書の作成:特に公正証書遺言は法的に有効で安心

家族信託の検討:資産凍結を避け、スムーズな管理ができる

銀行口座の整理:不要な口座の解約、通帳や印鑑の場所、インターネットバンキングなどの情報を早めに共有しておく

きょうだいでの「見える化」:LINEグループやノートアプリで情報を共有しておく

まとめ

親が認知症になったとき、お金や相続の問題は避けて通れません。
ですが、事前に少しずつ準備しておくだけで、家族の負担や不安は大きく減らせます。

大切なのは「透明性」と「記録」。
そして「家族で少しずつ話すこと」。

財産目当てと思われたくない――その気持ちも自然なものです。
でも、準備を先送りにすることで、かえって家族が困ることもあります。

だからこそ、今できる一歩を踏み出してみませんか。

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