住環境調査で、専門職の方が一番慎重に確認していた場所——それが浴室でした。
私の父は、危険認識が低いところがあります。入院中も、看護師さんが「座ってからの方が」と声をかけているのに、自分で立ったまま着替えようとしていました。「わしゃ一人でできるわい」と。
自宅に戻ったら、浴室はもっと心配です。妹とも「お父さん、絶対『手伝おうか』って言っても嫌がるよね」「うん…でも一人にするのも怖い」と、何度も話し合いました。
この記事では、入浴時の危険認識が低い親に、家族としてどう備えればよいのか、実体験を交えてお伝えします。
なぜ浴室は特に危ないのか
浴室は、住まいの中でも特に転倒リスクが高い場所です。
- 床が濡れていて滑りやすい
- 衣服を脱ぐ・着る動作で、体のバランスを崩しやすい
- またぎ動作(浴槽をまたぐ)が必要
- 熱いお湯や湯気で、血圧が変動しやすい
しかも、入浴は本人にとって「一番人に見られたくない」プライベートな時間でもあります。だからこそ、家族が声をかけても「大丈夫」「一人でできる」と拒まれやすい場面でもあります。
「手伝おうか」が届かないとき
危険だとわかっていても、本人に「手伝おうか」と声をかけて、素直に受け入れてもらえるとは限りません。
むしろ、プライドの高い方ほど、「まだ自分でできる」という気持ちを大切にしていることが多いです。それを頭ごなしに否定してしまうと、かえって意固地になってしまうこともあります。
私たち家族も、「見守りたいけど、嫌がられそう」というジレンマを、何度も話し合いました。
「介助」ではなく「環境整備」という考え方
住環境調査のとき、専門職の方からこんな言葉をもらいました。
「見守られるのは嫌でも、支えがそこにあるのは、案外嫌がられないことが多いんです」
これは、私にとって大きな発想の転換でした。「誰かに手伝ってもらう」ことと、「そこに支えがある」ことは、本人にとって意味が違うのです。
人の手を借りることには抵抗があっても、手すりや椅子という「もの」の助けを借りることには、抵抗が少ない方も多くいます。
つまり、家族が直接介助しようとするのではなく、本人が自分の力で安全に動けるように、環境を整えるという発想です。
具体的にできること
手すりの設置
浴室や脱衣所に手すりがあると、立ち座りや扉の開閉のときに、とっさに掴まることができます。
ただし、注意しておきたいことがあります。ユニットバス(ユニットタイプの浴室)の場合、壁の構造上、後付けの手すり工事ができないことがあります。壁に十分な下地がなかったり、防水層を傷つけてしまう恐れがあったりするためです。工事を検討する際は、事前に福祉用具業者や工務店に、設置が可能かどうか確認してもらうと安心です。
シャワーチェア
立ったまま体を洗ったり着替えたりするのではなく、座って行える環境を用意します。座面が高めのタイプを選ぶと、立ち座りの負担も減らせます。
段階的に備える
住宅改修で壁に手すりを設置するには、事前申請や工事の期間が必要です。すぐに備えたい場合は、床と天井を突っ張って固定する、工事不要の「つっぱり棒タイプ」の手すりを使う方法もあります。
- すぐにできる対策:つっぱり棒タイプの手すり(工事不要)
- 後日の対策:住宅改修で手すりを設置(ユニットバスの場合は可否を要確認)
急いで全部を完璧に整えようとしなくても大丈夫です。まずできることから始めて、少しずつ整えていくという進め方でよいと思います。
「浴槽に入ること」にこだわらない選択
安全を考えるうえで、もうひとつ大切な視点があります。それは、必ずしも浴槽に入る必要はないということです。
浴槽をまたぐ動作は、入浴の中でも特に転倒リスクが高い場面です。もともと浴槽につかる習慣が薄い方であれば、思いきって浴槽への出入りはあきらめて、シャワーで済ませるという選択も十分にあります。
わが家の場合も、父はもともと湯船につかる習慣があまりなかったので、シャワー椅子を置いてシャワー浴のみにする予定です。浴室の扉を開け閉めするときのふらつきに備えて、脱衣所側につっぱり棒タイプの手すりを設置し、脱衣所にも椅子を置いて、座って着替えられるようにするつもりです。
「きちんと湯船につからせてあげたい」という気持ちもありますが、安全と天秤にかけたとき、無理をしない形を選ぶことも、立派な備えだと思っています。
自宅での入浴にこだわらない選択
さらにもう一歩ふみこむと、入浴を自宅だけで完結させなくてもよいという考え方もあります。
デイサービスやデイケアには、入浴サービスがある事業所が多くあります。専門のスタッフが、安全に配慮しながら入浴を手伝ってくれるので、自宅で家族が気を張り続けるより、ずっと安心なこともあります。
わが家でも、デイサービスでの入浴に挑戦してみる予定です。本人が慣れるまでは戸惑いもあるかもしれませんが、「プロにお願いできる場所がある」というのは、家族にとっても大きな支えになります。
自宅の浴室をどこまで完璧に整えるか——そこだけで考えず、「入浴はデイサービスで」という選択肢も含めて、無理のない形を探してみてください。
まとめ
- 浴室は、滑りやすさ・着脱動作・またぎ動作が重なる、転倒リスクの高い場所
- 危険認識が低い親に「手伝おうか」と言っても、素直に受け入れてもらえないことがある
- 「介助」ではなく「環境整備」という発想に切り替えると、本人の自立心を保ちながら安全を確保しやすくなる
- 手すり・シャワーチェアなどの備えから始めるとよい(ユニットバスは後付け工事ができない場合があるので要確認)
- 浴槽への出入りをあきらめてシャワー浴にする、入浴自体をデイサービスに任せる、という選択肢もある
- 工事が必要な対策は、つっぱり棒タイプの手すりなどですぐの備えをしながら、段階的に進めればよい
「手伝う」ことや「自宅の浴槽で入る」ことにこだわらなくても、備え方はいろいろあります。ご本人の気持ちを大切にしながら、無理のない形で安全を整えていってください。
浴室の扉の種類による転倒リスクについては、開き戸と引き戸、転倒リスクの違いの記事もあわせてご覧ください。

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