「お父さん、こんな靴で歩いてたんだ…」
入院した父の身の回りの物を妹と一緒に整理していて、ふとベッドサイドの足元を見たとき、ハッとしました。
そこにあったのは、かかとの潰れたぶかぶかのスニーカー。
普段は気にも留めていなかった親の靴。
でも、医療ソーシャルワーカー(MSW)として今までたくさんのご家族と話してきたなかで、改めて気づきました。
「ぶかぶか靴」は、知らないうちに親の歩く力を奪っているかもしれない、と。
実は私自身も開帳足で長年靴選びに悩んできた経験があり、足が合わない靴が暮らしにどれだけ影響を与えるか、身をもって実感しています。
だからこそ、父の「ぶかぶか靴」を見たときの引っかかりは、家族の感覚以上のものでした。
今回は、父の入院をきっかけに、妹と一緒に靴を選び直した体験を交えて、「親の靴」と「フレイル予防」のお話をします。
親の「歩く力」を守ることが、フレイル予防の第一歩
聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれませんが、最近よく耳にする言葉に「フレイル」があります。
フレイルって何?
フレイルは、ひとことで言うと「健康な状態と要介護状態のあいだ」にある、虚弱な状態のこと。
| 状態 | 説明 |
|---|---|
| 健康 | 元気に生活できる |
| フレイル | 少し弱ってきた・要介護一歩手前 |
| 要介護 | 日常生活に支援や介護が必要 |
フレイルの段階で気づいて適切な対応をすれば、健康な状態に戻れる可能性があります。
だからこそ、最近は介護予防の現場でも「フレイル予防」がとても大切にされています。
フレイル予防のカギは「歩くこと」
研究でも、歩く機会が減ることがフレイルの大きな引き金になることが分かっています。
歩かなくなると…
- 下半身の筋力が落ちる(特にふくらはぎ・太もも)
- バランス感覚が鈍くなる
- 食欲が落ちる、便秘になる
- 外出機会が減り、社会的に孤立しやすくなる
- 意欲が落ちる、認知機能の低下にもつながりやすい
→ これらが連鎖して、「動けない」「家から出ない」「会話しない」の悪循環に入っていきます。
入院・退院後こそ「歩ける状態」を保ちたい
特に入院・手術・大きなケガなどで一時的に動けない期間があると、筋力はあっという間に落ちます。
高齢の方の場合、安静期間が1週間あるだけで、回復に1か月以上かかることもあります。
退院後にもう一度「歩ける生活」を取り戻すために――。
そのために必要なのは、リハビリ、食事、そして「歩くための靴」です。
なぜ高齢の親の靴は「ぶかぶか」になりやすい?
ここで本題。
なぜ、高齢になると靴がぶかぶかになりがちなのでしょうか。
理由は、ひとつではありません。
① 「履きやすさ」優先で大きめを買ってしまう
しゃがむのが大変、靴ひもを結ぶのがつらい、というご本人が選ぶ靴は、自然と「足を入れやすい大きめサイズ」になりがち。
お店でも「ゆったりサイズ」を勧められることが多く、いつのまにかワンサイズ大きい靴を履いていることがあります。
② 足の形が変わってきている
加齢とともに、足の形は少しずつ変わります。
- 足のアーチが落ちて足が広がる(幅広になる)
- 関節のむくみで夕方には足が一回り大きくなる
- 外反母趾や指の変形で、昔のサイズ感が合わなくなる
→ 結果、若いころと同じサイズだと窮屈に感じやすく、「もう一回り大きいほうが楽」になっていきます。
③ 体力が落ちると「きつめの靴」がつらく感じる
筋力が落ちて踏ん張る力が弱くなると、ぴったりサイズの靴を履くだけでも「疲れる」と感じるように。
本能的にゆるい靴=楽だと感じてしまうのです。
ぶかぶか靴が招く危険
楽に履けるなら、ぶかぶか靴でもいいのでは?
そう思いがちですが、実はここに大きな転倒リスクが潜んでいます。
① 歩くたびに靴が脱げそうになる
ぶかぶか靴は、歩くたびにかかとが浮いて、靴が前にすべる状態。
これを補おうとして、足の指先で必死に靴を引っかけて歩くような、不自然な歩き方になります。
② 踏ん張れない、止まれない
特に高齢の方に多いのが、前のめりに歩いて止まれなくなる「突進歩行」という状態。
父も今リハビリで指摘されているのですが、ぶかぶか靴ではここで踏ん張れず、前のめりに転倒してしまうリスクが一気に高まります。
③ 転倒→骨折→寝たきりのリスク
高齢の方の転倒で怖いのは、転んだあとです。
転倒 ↓ 骨折(大腿骨頚部骨折など) ↓ 入院・手術 ↓ 安静期間中に筋力がさらに低下 ↓ 退院後も歩けない、寝たきりに近づく
これが、フレイル→要介護への「ドミノ倒し」です。
一足のぶかぶか靴が、その引き金になってしまうことがあるのです。
我が家のリアル:父の靴選び体験記
ここからは、私と妹で父の靴を選び直した実体験のお話です。
「介護用は年寄り扱いするなって嫌がる」
最初、私は「介護用品メーカーのシューズ」を提案するつもりでした。
履きやすさ・軽さ・安全性、どれをとっても優秀だからです。
でも、妹がこう言いました。
「お父さん、介護用の靴を見せると年寄り扱いするなって嫌がると思う」
ハッとしました。
ご本人の「まだ自分はそんな年じゃない」というプライドは、見落とせない大切な気持ちです。
市販のスポッと履けるスニーカーを選択
そこで私たちが選んだのは、市販のスポッと履けるスニーカー(ベルクロタイプ)。
見た目が普通のスニーカーなので、父も嫌がらずに受け入れてくれそう。
サイズ選びは「測ってから」
ここが大事だったのですが、お店に行く前に病院に寄って父の足のサイズを測りました。
靴選びでよく見落とされるのが、「サイズ=足の長さ」と思いがちなこと。
でも実は、合う靴を選ぶには、足長・足囲・足幅の3つを知ることが大切なのです。
- 足長:かかとからつま先までの長さ(父は27.5cm)
- 足囲(あしい):足の一番広い部分の周囲の長さ(父は25.5cm)
- 足幅:足の一番広い部分の左右の幅(父は10cm)
父はこれまで足長だけを見て靴を選んでいたので、足囲や足幅が合わない靴をぶかぶかで履いていたのです。
今回は、足の幅・厚みに対応できるよう、幅広タイプ(市販で「4E」などの表示があるもの)を選びました。
病院で試し履き → 「きつい」と言われた
サイズ交換できるお店で購入し、翌日妹が病院に持って行って試し履きしてもらいました。
結果は…「きつい」。
普段ぶかぶかの靴に慣れていたので、足に合ったサイズは「きつい」と感じてしまったのです。
対応:ワンサイズアップ+インソール調整
そこで、
- 足長をワンサイズ上げて交換
- インソール(中敷き)を足して、足が動きすぎないよう調整
という方向で、再チャレンジすることに。
【追記】翌日の試し履き結果
ワンサイズアップ+インソールで調整した靴を、再度妹が病院に持って行きました。
結果は…父から「これなら大丈夫」の合格点をいただけたそうです🌸
実際に歩いた感想は、リハビリで履いてもらってからの後日報告になりそうです。
あとは、新しい靴に少しずつ慣れてもらうのみ。
ちなみに妹は「もしこれでダメなら、介護用品メーカーのシューズに切り替えるつもり」とのこと。
「まず試して、ダメならプランB」――この柔軟さも、介護を続けていくうえで大切なポイントだなと思いました🍀
「足に合う靴」に慣れてもらうコツ
ご本人にとって、長年のぶかぶか習慣からぴったり靴に切り替えるのは、慣れが必要です。
家族ができるサポートはこんな感じです。
① 短時間から履いてみる
最初から1日中履いてもらうのではなく、30分→1時間→2時間…と少しずつ。
「今日はこれだけ履いてみようか」と声をかけながら。
② リハビリの時間に履いてもらう
入院中ならリハビリの時間に履いてもらえると、スタッフの目があるので安心。
歩きやすさや問題点も、その場でリハスタッフに聞けます。
③ 1〜2週間かけてゆっくり慣れていく
「合ってる靴に慣れる」のには、1週間から10日くらいかかります。
焦らず、ご本人のペースで。
介護用品メーカーという選択肢もある
今回は妹の判断で市販スニーカーにしましたが、介護用品メーカーのシューズも素晴らしい選択肢です。
代表的なメーカー
| メーカー | 特徴 |
|---|---|
| あゆみシューズ(徳武産業) | 介護シューズの定番。幅広対応・左右別売りも可 |
| パンジー | おしゃれな見た目で介護っぽさが少ない |
| たんぽぽ/コーガン | むくみ対応・履き口が広い |
ケアマネ経由のメリット
ケアマネジャーさんを通すと、
- 自宅で試し履きできる場合がある
- 定価より少し安く購入できる場合がある
- 福祉用具レンタルにはならないが、相談しやすい
→ ご本人が見た目を気にしない方、機能性を最優先したい方には、こちらが断然おすすめです。
まとめ|履きたい気持ちと安全のバランス
父の靴選びを通して、改めて感じたことがあります。
- 「年寄り扱いするな」というご本人のプライドは大切に
- でも、「履きやすい靴」よりも「歩ける靴」を選びたい
- 一足の靴が、フレイル予防の第一歩になる
ぶかぶか靴は、楽に履けるかもしれません。
でも、親の歩く力をそっと奪っていくものかもしれない。
「うちの親、最近そういえばどんな靴履いてたっけ…?」
そんなふうに、ふと立ち止まって靴箱を見てみる。
それだけで、ご家族の介護予防の第一歩になります🌸
ご本人に合った一足が見つかること、そして、また自分の足で歩いて家に帰る日が来ることを願って🍀
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