退院準備、何から始める?〜住まいを整えるためのチェックリスト〜

医療・福祉の制度、支援

「退院、そろそろですよ」

そう言われたとき、うれしさと同時に「あれ、家の準備って何をすればいいんだろう」と焦る方は多いと思います。

私自身、MSWとして何度も退院支援に関わってきましたが、いざ自分の父の退院準備となると、考えることの多さに戸惑いました。

この数か月、父の退院に向けて実際に動いてきたことを、チェックリストの形にまとめました。これから退院準備をされる方の、道しるべになればうれしいです。

まず知っておきたい全体の流れ

退院までの準備は、おおよそこんな順番で進みます。

  1. 住環境調査(退院前訪問) — 専門職と一緒に自宅を確認する
  2. 必要な備えを検討 — 手すり・福祉用具・住宅改修の要否を決める
  3. すぐできる対策を実施 — 福祉用具のレンタルなど
  4. 退院前カンファレンス — 在宅サービスへの引き継ぎ
  5. 退院 — 必要に応じて、退院後に住宅改修を実施

すべてを退院日までに完璧に整える必要はありません。「すぐできること」と「あとから整えること」を分けて考えるのがポイントです。

チェックリスト① 住環境の確認

まずは、自宅のどこに危険があるかを把握します。専門職と一緒に確認する機会が「住環境調査」です。

  • 玄関・上がり框の段差は上り下りできるか
  • 居室からトイレまでの動線に問題はないか
  • 部屋の入口の敷居に段差がないか
  • 扉の種類(開き戸・引き戸)と、開閉時のふらつきの有無
  • 浴室のすべりやすさ、またぎの高さ
  • 廊下や階段の幅、明るさ

住環境調査の実際の流れについては、退院前の「住環境調査」って何をするの?で詳しくお伝えしています。

チェックリスト② 福祉用具の手配

工事をせずに、すぐ用意できるのが福祉用具です。ただし、介護保険の福祉用具には「借りるもの」と「買うもの」の2種類があり、仕組みが違います。

レンタルできるもの(福祉用具貸与)

  • 手すり(つっぱり棒タイプなど、工事不要のもの)
  • ベッド・マットレス
  • 車いす

月々のレンタル料に対して、負担割合(1〜3割)を支払う仕組みです。要介護度ごとの支給限度額の枠内で利用します。

購入するもの(特定福祉用具販売)

肌が直接触れるものや、衛生上レンタルになじまないものは、購入になります。

  • シャワーチェア・浴槽用手すりなどの入浴補助用具
  • ポータブルトイレ(腰掛便座)
  • 簡易浴槽

こちらは1年間(4月〜翌年3月)で10万円までが介護保険の対象です。負担割合に応じて1〜3割を自己負担します。レンタルの支給限度額とも、住宅改修費の20万円枠とも、別の枠として使えます。

購入時は、指定を受けた事業者から買うことが条件です。ネット通販などで自己判断で買ってしまうと対象外になることがあるので、必ずケアマネジャーや福祉用具業者に相談してから購入してください。

選べるもの(2024年4月から)

固定用スロープ・歩行器・杖については、レンタルと購入のどちらかを選べる制度になりました。使う期間の見通しによって、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と相談して決めます。

  • 段差解消用のスロープ
  • 歩行器

チェックリスト③ 住宅改修の検討

工事が必要な改修は、事前申請が必須です。申請から着工までに時間がかかるため、退院日に間に合わないことも多くあります。

主な対象工事は、手すりの取り付け、段差の解消(敷居を低くする・スロープの造作など)、扉の取り替え、床材の変更、便器の取り替えなどです。

家族が決めること

  • どこに、どんな工事をしたいか(希望を伝える)
  • 見積もりの内容と金額に納得できるか
  • 工事をする時期(退院前か、退院後の様子を見てからか)

専門職にお任せできること

住宅改修の手続きは、書類も多く複雑ですが、ほとんどはケアマネジャーと施工業者が進めてくれます

  • ケアマネジャー:「住宅改修が必要な理由書」の作成、市区町村への事前申請の段取り
  • 施工業者:現地調査、見積書の作成、図面の用意、工事の実施
  • (ユニットバスの場合)浴室に手すりを後付けできるかどうかの確認も、業者が判断してくれます

家族が書類を自分で書いたり、役所に何度も足を運んだりする必要はありません。「こうしたい」という希望を伝えて、あとは相談しながら進めれば大丈夫です。

費用が20万円を超えそうなときは

介護保険の住宅改修費の上限は20万円です。この枠を超える工事を考えている場合は、自治体独自の助成制度が使えないか確認してみてください。

私たちの場合も、住環境調査のときに工務店の方から「市の補助金も使えるかもしれません」と教えてもらいました。要件や金額は自治体によって大きく異なるので、ケアマネジャーや市区町村の窓口に相談してみるとよいと思います。

詳しくは住宅改修、退院に間に合わない問題をご覧ください。「あえて急がず、退院後の暮らしを見てから決める」という選択肢についても書いています。

チェックリスト④ 特に注意したい場所

敷居の段差

見落とされやすいのが、部屋の入口にある敷居のわずかな段差です。数センチの高さでも、すり足で歩く方にとってはつまずきの原因になります。

対策には、大きく3つの方法があります。

敷居の段差解消の比較図:置き型タイプと敷居を撤去する工事

① 置き型タイプ(工事不要)

敷居の前後に置く、細長い三角形の板のようなものです。玄関に設置する大きなスロープとは違い、手のひらサイズの薄い部材をイメージしてください。介護保険では「固定用スロープ」にあたり、レンタルか購入かを選べます。工事がいらないので、退院にすぐ間に合いますし、取り外しもできるので賃貸住宅でも使いやすい方法です。

② 工事で固定するタイプ

同じような部材を、床にしっかり固定する方法です。置き型はズレることがありますが、固定すればその心配がありません。住宅改修(段差の解消)の対象になります。

③ 敷居そのものを取り除く・低くする

根本的に段差をなくす工事です。段差がなくなるので、車いすや歩行器もスムーズに通れるようになります。こちらも住宅改修の対象です。

「たった数センチだから」と見過ごさず、実際にその場所を歩いてもらって確認するのがおすすめです。

扉まわり

開き戸は、開閉時に体を前後に動かすため、転倒しやすい場面になります。扉を引き戸に変えるほかに、そばに手すりを1本つけるという対策もあります。

開き戸と引き戸、転倒リスクの違い

浴室

浴室は、住まいの中でも特に転倒リスクが高い場所です。手すり・シャワーチェアの設置に加えて、「浴槽に入るのをあきらめてシャワー浴にする」「入浴はデイサービスにお願いする」という選択肢もあります。

浴室は転倒リスク最大級の場所

チェックリスト⑤ 在宅サービスの準備

退院後の生活を支えるサービスの調整も、並行して進めます。

  • ケアマネジャーとの契約(未契約の場合)
  • 訪問リハビリ・訪問看護の手配
  • デイサービス・デイケアの見学と申し込み
  • 通院リハビリの調整
  • 退院前カンファレンスの日程調整

サービスの量は、要介護度の支給限度額とのバランスで決まります。要介護認定の区分変更を検討する場合は、要介護認定の区分変更申請、するかしないかもあわせてご覧ください。

完璧を目指さなくて大丈夫

ここまでたくさんのチェック項目を並べましたが、すべてを退院日までに終わらせる必要はありません

私たちの場合も、退院時はレンタルの手すりでしのいで、住宅改修は退院後に実際の暮らしぶりを見てから決めることにしました。

大切なのは、「今すぐ必要な安全」と「あとから整えればいいこと」を分けて考えることです。専門職と相談しながら、ご家族のペースで進めてください。

まとめ

退院準備でやることは、大きく5つです。

  1. 住環境の確認(住環境調査)
  2. 福祉用具の手配(レンタル・購入・選択制の3種類がある)
  3. 住宅改修の検討(事前申請が必要・時間がかかる)
  4. 危険な場所への対策(敷居の段差・扉まわり・浴室)
  5. 在宅サービスの準備

費用の枠は、それぞれ別立てになっています。

制度 上限
福祉用具貸与(レンタル) 要介護度ごとの支給限度額の枠内
特定福祉用具販売(購入) 年間10万円(4月〜翌年3月)
住宅改修 20万円(要介護度に関わらず一律)

一度に全部を抱え込まず、できることから少しずつ。一人で悩まず、ケアマネジャーや病院のMSWに相談しながら進めていきましょう。

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